No. 22 「やぎの丸焼きは食後のデザート?」 by (き) 2002年9月1日号


遠来の客のもてなし方には、その地方独特のものがある。前に住んでいたスリランカでは特別な客には、特別辛いカレーを出すというスリランカ流の接待を受け、目から涙、鼻から鼻水が流れるほど感動したものである。キリマンジャロ山麓に住むチャガ族の人たちの客のもてなし方を、紹介してみよう。

客が政府のえらい人や開発事業のスポンサーの場合、歓迎式典がとり行われる。式次第は、歌や踊り、そしてスピーチが続く。どちらも長くやるというのが、もてなしのポイントのようである。あまりのスピーチの長さにウトウトし始めたころ、ようやく終わり、お酒と食事の部に移る。スピーチをした本人はまだ語り足りなさそうな感じであるが、会場全体は、やれやれと言う感じになり、じつに和やかな雰囲気に包まれる。客はこの長いスピーチ攻撃に、じっと耐えることが礼儀正しい、もてなされ方である。

主賓はハイテーブルと呼ばれる、日本でいう上座に座り、やはり日本と同じように、お酒も食事も一番最初に振舞われる。主賓は食事を出されたら、すぐに手をつけてよいことになっているので、段取りが悪いと皿が足りなかったりして、主賓の食事が終わっても、末席の人たちはまだ食事にありついていないことがよくある。

上座の人たちの食事が終わり爪楊枝でシーハーやり始め、末席の人たちが食べ始めたばかりの頃合いで、男性4人が担架に乗せた白い布で覆った「あるもの」を主賓の前に運び込む。中の一人が白い布をうやうやしく取ると、ヤギの丸焼きが出現する。(そのあまりに痛そうな姿に、ちょっとたじろぐが、ヤギの香ばしい匂いや、ほどよい焼け具合に、ああ満腹にするんじゃなかった、とすぐ後悔したりする。)歓迎側の長(例えば村長とか校長先生とか)により、これは食後のデザートです、どうぞお持ち帰りくださいと口上が述べられる。(やっぱりなあ。)ここで主賓が、はいそうですかと、さっさと車に積み込むようなことをしたら、顰蹙もので、尊敬の念も地に落ちる。(土地柄、お国柄で礼儀作法が違う、ここらあたりが最も難しい)お返しの言葉として主賓は、持ち帰っても一人では食べきれませんので、ぜひここで皆さんも一緒食べましょう、と言うことになっている。

かくして、ヤギの背中の一切れを主賓がまず口に入れて毒見をし、その後は瞬く間に解体され、出席者全員で楽しむ。事情を知らずにメインコースで満腹にした者は、恨めしげに、このデザートを眺めるだけになる。ヤギのデザートは別にして、どこか日本の田舎に似たチャガの人たちのもてなし方で、少し心が温かくなる。(き)


週刊 キリマンジャロの日曜日 
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結婚式では、新郎が新婦にヤギの肉を一切れ食べさせる