
「キリマンジャロ山麓は、キリマンジャロコーヒーの故郷」
コーヒー豆にはたくさんの種類があるが、ストレートで飲むのに最も美味しい豆は2種類ある。ブルーマウンテン、そしてタンザニア AA(キリマンジャロ)。キリマンジャロの特徴は、豊潤な香りと気品のある酸味で、ブレンドに使うと、ほかの豆の力強さに負けて持ち味が簡単に失われてしまう。コーヒー豆界のプリンセスなのである。
最高級のアラビカ種でもあるキリマンジャロを作るのは、ものすごい手間と時間がかかる。
まず時間の部分。コーヒーは実が収穫できるようになるまで3年から5年かかる。スターバックスコーヒーのパンフレットによれば、1ポンド(454g)のコーヒー粉には4000粒のコーヒー豆が必要で、それぞれの木からは1年間に一ポンド分のコーヒー粉しか穫れないそうだ。我が家は少なくとも月に1kgは消費するから、1年間で24本のコーヒーの木を飲んでいる計算になる。
手間の部分。コーヒー栽培というと大規模な農場を想像する人が多いと思うが、プリンセスの故郷は、バナナの木陰、湧き水、冷涼な地にある小さな農家が主流だ。豆が紅く熟すと農家の人は、収穫、果肉とり、洗浄、天日干しなど、すべて手作業でやる。重労働、コーヒーの木の維持にかかる経費の増大、低い生産者価格などが原因で、近頃はコーヒーからトマトなど収入の多い作物に切り替える農家が増えてきた。農家のコーヒー収入は1kg400シリング(約60円)にしかならない。モシの町では、この20倍の値段で売られているのに。「キリマンジャロ山麓は、キリマンジャロコーヒーの故郷」ではなくなる日が来るかもしれない。
今から20年も前の話になる。私がケニアに住んでいた頃、コーヒー豆の収穫期になると、生徒たちは家庭から呼び出しがかかり1〜2週間学校を休んだ。コーヒー栽培は農家の貴重な収入源だから、子供も重要な労働力となる。収穫が終わると、生徒はコーヒー好きの私のために一握りづつコーヒーの生豆を「これ飲んで、先生」と持って来てくれた。教わった通り、深めの鍋に生豆を入れ丁寧に煎ってみたが、なかなかうまくいくことはなかった。けれど、生徒が汗を流しながら摘んだコーヒーだと思うと、そのやさしさが美味しさに変わった。わが家の庭に実ったコーヒー豆を、昔のように煎ってみようかと思っている。(く)
週刊 キリマンジャロの日曜日
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